東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)70号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(編注、原告の主張次の通りである。
一 特許庁における手続の経緯
原告(旧商号セラニーズ・コーポレーション・オブ・アメリカ。昭和四十一年四月十三日現商号に変更)は、昭和三十七年二月二十一日、名称を「トウ拡開方法ならびにその装置」とする発明について特許出願をし、昭和四十年九月三十日、出願公告(特許出願公告昭四〇―二二〇〇四)されたのち、同年十二月八日右出願の一部を分割して、名称を「トウの分繊装置」とする新たな特許出願をしたところ、昭和四十二年二月十四日右分割出願につき拒絶査定があつた。そこで、原告は、同年四月五日、これにつき審判を請求し、昭和四二年審判第二、二五四号事件として審理されたが、昭和四十二年十二月二十一日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は昭和四十三年二月三日原告に送達された(出訴のため附加期間三か月)。
二 本願発明の要旨
少なくとも一方がスクリューローラーから成る少なくとも一対のローラーを設け、対をなすローラーが互に圧接しながら回転するようにし、この両ローラー間を進行するトウを回転するスクリューローラーの螺子山面で圧挾し緊張させ、スクリューローラーの回転に伴つて繊維が螺子山面から外れて螺子溝に移ることにより一本一本の繊維を順次瞬間的に弛緩させ、この瞬間的弛緩によりトウの分繊を行なわしめることを特徴とするトうの分繊装置。
三 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は前項掲記のとおりであるところ、その出願前に日本国内において頒布された特許出願公告昭和四〇―二二〇〇四号公報(本願発明は前記公告された発明と同一であり、本願出願は、その分割出願とは認められない。)のうち第二発明の要旨は「少なくとも一方のロール表面にロール軸に対し角度を有した溝を設け、その溝で区画された峰部と相対するロールの表面との間でフイラメントを掴持し、これに隣接した部分ではフイラメントを掴持しないように両ロールを接触させた少くとも二対のロール群と、該ロール群間にトウを通過させる装置とからなる捲縮した人造フイラメントのトウの個個のフイラメントの捲縮の整合を解除しながらトウを開拡する装置」(以下「引用例」という。別紙参照)にある。この両者を比較すると、両者は、「トウの分繊装置において少くとも一方がスクリューローラーから成る対をなすローラーを互に圧接しながら回転するようにし、この両ローラー間を進行するトウを回転するスクリューローラーの螺子山面で圧挾し、スクリューローラーの回転に伴つて繊維が螺子山面から外れて螺子溝に移ることにより一本一本の繊維を順次瞬間的に弛緩させ、この瞬間的弛緩によリトウの分繊を行なわしめることを特徴とする」一点で一致する。ただ(1)本願発明が、少なくとも一対のローラーを設けているのに対して、引用例は、少なくとも二対のローラーを設けている点、および(2)本願発明はトウを「緊張」させているのに対し、引用例は「緊張」にふれていない点で両者間に、一応の差異はあるが、前記(1)の差異は両者間にとくに効果上の差異をもたらすものとは認めがたく、トウまたはフイラメントの各種条件に応じて任意に変異できる単なる設計変更にすぎない程度のことと認められ、また、前記(2)の点も、引用例の明細書の実施例の第6図の場合はもとより、第1図の場合においてもトウが緊張されているのみならず、一般にトウの分繊手段には緊張を伴うのが常識である点からみて、引用例においても、当然緊張が行なわれているものと認められるから、前記(1)および(2)の点についても、格別差異は認められず、本願発明と引用例の第二発明とは結局同一発明の範囲を出ないから、本願発明は特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第二十九条第一項第三号に該当し、特許を受けることができない。)
〔判決理由〕一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨および本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本願発明と引用例とが、トウの分繊装置において、少なくとも一方がスクリューローラから成る対をなすローラーを互に圧接しながら回転するようにし、この両ローラー間を進行するトウを回転するスクリューローラーの螺子山面で圧挾し、スクリューローラーの回転に伴つて繊維が螺子山面から外れて螺子溝に移ることにより一本一本の繊維を順次瞬間的に弛緩させ、この瞬間的弛緩によりトウの分繊を行なわしめることを特徴とする点において、一致することは、原告の認めて争わないところである。
原告は、本願発明は少なくとも一対のローラーを設けているのに対し、引用例においては少なくとも二対のローラーを設けていることに相違がある旨主張するが、本願発明の装置においては、少なくとも一方がスクリューローラーである開拡ローラーを一対またはそれ以上設けるべきものとされ引用例の装置においては、少なくとも一方がスクリューローラーから成る二対またはそれ以上のローラーを設けるべきものとされていることは前記当事者間に争いのない本願発明および引用例の各要旨に照らして明らかなところであり、結局、本願発明の装置を引用例の装置とは、二対以上のローラーを設けるべきものについては、異なるものがあるとはいえず(緊張手段についての原告の主張の理由のないことは後に説示するとおりである)、したがつて、原告の前示主張は進んでその余の点について判断をもちいるまでもなく、理由がないものといわざるをえない。
次に、原告は、本件審決が、本願発明が緊張手段を設けることを要件とするというものの、引用例にも緊張があり、かつ、トウの分繊装置において緊張の存することは常識であるとしたのは誤つていると主張する。
そこでこの主張について検討するのに、引用例記載の公報によると、その装置を用いた実施例の説明として本件審決の指摘するとおりの記載のあることが認められ、それらによれば、いずれもトウ全体に対し緊張が加えられるものであることが、各ロールの周速度の比較計算上明白である。
<中略>
(なお、<書証>によると、本願発明の優先権主張日前において、トウの分繊手段に緊張を伴うことが一般に知られていた事実も、また認めうるところである。)
したがつて、緊張の点につき引用例と本願発明との間に格別の差異を認めず、両者は同一発明の域を出ないとした本件審決を違法ということはできない。
(むすび)
三 以上説示したとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないものというのほかない。
よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)